この町が変わったのか僕が変わったのか、答えはそのどちらでもなくただただ時間が流れただけなんだ。見たことがないビルも、LEDになった信号機も、大人になったあの子供もいなくなったあの大人も、まるではじめからそうだったように存在している。あのドトール潰れたんだ。あ、ビルの中に入ったのか。なんて、何にもならない感想をツイートみたいに呟く。
空から見たのよりも、すっかりと原型をとどめていない町。当然か。町の一部は爆撃によってなくなったし、住んでいた人だって散り散りになった。何かが残っていることこそが期待のしすぎなんだ。幻覚みたいに過去を思っている。まるで一人でお芝居をしているみたいに、誰にも視線が合わないまま町をうろつく。まるで未来に来てしまったみたいだ。
バカみたいなセリフだ。
町に帰ってきてすぐに、久しぶりに友達からの連絡が来た。いや、正しくは昔友達から来ていた連絡が今来たと言うべきか。メールというものは、電波の届かないところにいるとサーバーという倉庫のようなものに保管してくれるようだ。いつ送られてきたメールなのだろうか。ずいぶん前だ。そこには、
「 年1月末に同窓会を行う。空けておけ。大人になってまた集まろう。約束だ。」とだけ書いてあった。
彼女らと最後にあったのもずいぶん前だ。卒業式、には私は行かなかった。行けなかったのだ。あの日も飛行機は飛んでいた。あの日も、あの日も。僕たちの生まれる前から飛行機はずっと飛んでいて、多いときでは自動車の走る音よりもずっと長く、それが飛んでいる音は続いていた。無数の飛行機があらゆる方向へ飛んで空を覆う。交通手段としてではない、あらゆる方向で、そのときから戦争は行われていた。でもどうしてか、僕たちの国の中では戦争は起こらなかった。起こらなかったはずだった。
父はパイロットだった。僕たちの国で戦争が起こらないように毎日戦っていると母から聞かされていた。だからロクに会ったことはなかった。中学二年のときに届いた父のゴーグルが、僕の覚えているほとんど唯一の思い出だ。だから、どんな父だったのかなんて、立体的には知らない。その日気丈な母が号泣しているのを見て、天国に行っているといいな、とぼんやりと思った。そのぼんやりだけが父だった。
僕はそのぼんやりを追っかけてパイロットになった。そのおかげで卒業式に行けなかったのは心残りだ。
友達にメールで返信をする。
「久しぶり。同窓会は今日であってるよね。どこで?」
何も返ってこない。携帯を閉じる。
ゆっくりと深呼吸をする。鼻が濡れた感覚があった。肺に冷たい空気が流れ込み、ぶるっと身震いをする。時計を見た。もう八時になる。返事はいつ来るのか・・・。
少し考えて、僕は母校に足を運ぶことにした。友達と会う前に、あの日立てなかった場所に行く。何かを取り戻すみたいに。戦争が終わって、ようやく僕は立てるんだ。
・・・友達は卒業式の日から変わらずずっとそこにいた。まるで僕を待っていたかのように、ずっとそこにいた。ニュースでいくつかの学校が爆撃されたことは知っていた。でも、まさか自分の母校がだなんて思うはずないじゃないか。 、 、 、 。君たちは、君たちはなぜそこにいたんだ。
僕は死ななかった。僕だけが死ななかった。なぜ今僕はここにいるんだ。僕だけがいるんだ。父のように、みんなを守るためにパイロットになったのに。
誰もいない町の中で、遠くの明るくなった信号の点滅が僕の顔を照らしている。
久しぶりに会う友達の顔はずいぶんと変わっていた。変わっていた、というか、そんな顔だったっけ。冗談は置いておこう。とりあえず乾杯だ。しっとりと予定通り始まる同窓会。
静かな夜だ。
昔のことを思い出せば出すほど、笑いと涙が混じった、まるでガラスみたいな感情が溢れてくる。
「ずいぶんと時間が経ったからね。変わっているのは当然だよ。」と友は言いたげだ。
そうか、あれからもう八年ぐらいか。卒業式の日から時間は止まっていたみたいだ。僕はどうだい?変わったかな。自分で言うのもなんだけど、なかなかたくましくなっただろう。
・・・静かな空間に僕の時計の音が響いている。
カチッ、カチッ、
と歯車が回る。愛おしい音だ。それに合わせて、頭の中で音楽が鳴っている。あの日音楽室で誰かが奏でてくれたクラシック。ノクターンだ。懐かしいな。頭から耳に通るその音楽が、セピア色のキャンバスに絵の具がかかったみたいにたくさんの記憶を甦らせる。
帰り道の他愛のない会話、休み時間の喧嘩、雨の日の憂鬱さ、文化祭、たくさんの飛行機。耳をすませば、教室の喧騒や運動場の砂ぼこりの音もする。それらはひどい頭痛みたいにのしかかる。
いろいろあった。そう、あれからいろいろあったんだ。君たちと離れてから、僕はたくさんの空を見たんだ。その色を君たちに伝えたかった。卒業式の日に伝えられなかった思いが、ずっとずっと言葉にできなかったものがそこにはあったんだ。口下手な僕だけれど、やっと言葉にできるようになったんだ。・・・でも、そう上手くは伝えられないものなんだね。
むしろゆっくりと君たちの話を聞きたいと思うよ。誰もいない町の中で、たっぷりと君たちの話を、夜を想うように過去を思いながら。
僕はあの日、君たちに何も言わずに去って行った。けれどそれから八年間、一度だって君たちのことを忘れたことは無い。本当だよ。ありがとう。
「・・・・・・・・・・。」
音楽はいつまでも鳴り止まない。ずっと頭の中で鳴っているんだ。夜が終わるまで、きっとこの同窓会は続く。いつまでも、いつまでも繰り返すように、ゆっくりと、抒情的に。
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